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感じてないから気づかない



来年90歳を迎える父の長年の懸念点に

耳の聞こえが悪くなっていることがあります。


年齢を重ねれば耳が遠くなることはよくあることですが

父の場合は、言葉が聞き取れないことがよくあり、

「何?もう一遍言って!」と訊き返されることが度々あります。


「耳鼻科に行こう」と話をしつつも

他の痛みや辛い箇所の対処に追われ後回し。

先日、ようやく他の症状の診察も兼ねて耳鼻科を受診しました。


案の定、中程度の難聴の診断が下りました。

言葉の聞き取りも、音の大きさがあればかなり聞き取れているということで

補聴器を勧められて帰ってきました。


 

ところが、本人は

「困ってないから、補聴器はまだいい」

と言うのです。



「仕事をしているわけではないし」


「TVを大きくして聞けば問題ない。他の家に迷惑にならない程度なのも確認している」


「年金生活者にそんな高価なものは買えない」



と一向に補聴器を検討しようとしない父に



「耳の聞こえの悪さは認知症のリスクを高めるよ」


「よく聞こえなかったとしても、そのままにしちゃうこともあるんでしょ?  それはコミュニケーションに困ってるということじゃない?」


「聞こえてなくてわからないから、困ってると感じないだけだよ」


「お父さんは困ってなくても、  お父さんに合わせて大きな声で話したり、  何度も繰り返して話したりしてるみんなが困ってるんだよ」



などなど、あの手この手。



とりあえず、補聴器を使ってみて変わるのかどうかを試してみようと持ち掛け、

補聴器専門店でデモ機を1週間お借りしたり、

安価な集音器を返品前提で購入して使ってみたり。


途中、父が反感を示すこともあり、

無理やり器具を装着させるのもどうかなぁ…と

こちらが弱気になることもありました。


 

 

状況が変わったのは、病院に行った時。


定期的に診察してもらっている先生と話をするときですら、

「(器具をつけているからと言って)特に変わらない」

と気のない様子でした。


休憩スペースでお茶をしながら調剤を待っているとき、

たまたますぐ後ろのATMで、何度も操作を繰り返している人がいました。

機械の音やアナウンスの音量がかなり大きく「うるさいな」と思っていたところ、

父が「うるさいなぁ」と文句を言ったのです。


そんな文句を言う父を見たのは初めてで、


「お父さん、何かを『うるさい』と思ったこと、しばらくなかったんじゃない?」


と言うと、ようやく自分の聞こえが悪くなっていることを実感したようでした。



また、後日、

ヘルパーさんに器具を試しているという話をしたところ、


「ほかのお家よりもTVの音が大きいし、

 実は声をかけたけれど返事をされないことが何度かあったので、

 『ああ、聞こえが悪いんだなぁ』と思っていました。」


と言われたとのこと。


色々と思うところがあったようで、

前向きに器具をつけ続けてくれるようになりました。


 

日本語で「感じる」とひとくくりに言いますが、

厳密には「五感で何かを感じ取る(sense)」ことと

「心の中で何かを感じる(feel)」は違うプロセスです。


確実に言えることは、

五感で感じることができなければ、

外界に反応/対応することはできないということ。


でも、自分がどれだけ感じ取れているのか、

案外自分ではわからないものなのかもしれません。



あなたが感じていないから 気づいていないことは何ですか?



余談ですが、

この週末、両親と兄夫婦、私の夫と6人で団らんする時間がありました。


父はとてもおしゃべり好きで、

これまでものすごくエネルギッシュに、

時には、まくしたてるように話していたのが、

以前よりも控えめな大きさの声で、穏やかに話していました。


今までは自分の声もよく聞こえないので、

大きな声で相手に伝わるようにと、

無意識に一生懸命話そうとしていたようです。


感じ取ることが増えると、行動も変わるのですね。


それではまた!


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